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【論破】TPPをめぐる議論の間違い【Part1】(東京大学教授 鈴木宣弘氏 )~TPPを考える国民会議HPより

TPPを考える国民会議HPよりhttp://tpp.main.jp/home/
資料:TPPをめぐる議論の間違い(東京大学教授 鈴木宣弘氏 )http://tpp.main.jp/home/wp-content/uploads/d58e252c5ea75e0feb1ae7c3d802d9f7.pdf
以下、転載

TPP をめぐる議論の間違い
東京大学 鈴木宣弘


1. TPP はアジア太平洋地域の貿易ルールになるから参加しないと日本が孤立する
これは間違いである。米国は、自らは NAFTA(北米自由貿易協定)などで「米州圏」を固めつつ、アジアが米国抜きで「アジア圏」を形成することには強い懸念を表明してきた。米国が以前から提唱している APEC21 ヵ国全体での自由貿易圏 FTAAP は、その実現をめざすというよりも、ASEAN+3(日中韓)などのアジアにおける連携の試みを攪乱することが主たる目的と考えた方がわかりやすい。
TPP の推進も、FTAAP の一里塚というよりも、ASEAN+3 などのアジア圏形成を遅らせるのに好都合なのである。米国自身、「これは対中国包囲網だ。日本は中国が怖いのだから、入った方がいい」と説明している。中国も韓国もインドネシアもタイも NO といっている TPP に、もし日本が入れば、アジアは分断される。世界の成長センターであるアジアから米国が十二分に利益を得るためにも、米国が覇権を維持するにも、アジアは分断されているほうが好都合である。逆に言えば、日本が世界の成長センターとなるアジアと共に持続的発展を維持するには、ASEAN+3 などの「アジア圏」の形成によって足場を固めることが極めて重要であり、それが、米国に対する拮抗力を維持しつつ、真に対等な立場で米国と友好関係を築くことにもつながる。
TPP では、TPP を警戒するアジア諸国と TPP に入るアジア諸国で、アジアは分断されるのだから、TPP はアジア太平洋全体のルールにはならない。ならないし、してはいけない。かりにも、TPP が拡大し、米国の利益の押しつけによってアジアのルールが決まるようなことは、アジアの利益にはならない。小規模分散錯圃の農業を含め、様々分野で共通性のあるアジアが、その利益を将来に向けて確保できるルールはアジアが作るべきである。それをリードするのがアジアの先頭を走ってきた先進国としての日本の役割である。
すでに、ASEAN は、TPP に対抗して、ASEAN が主導してアジア太平洋地域の自由貿易圏を創設する方向性を提示しており、日本が TPP に入ることが、アジア圏の形成にマイナスになるとして、懸念を表明した。


2. 中国も韓国も TPP に強い関心を示しており、やがて入ってくる
これは間違いである。韓国は、韓米で、コメなどの最低限の例外を何とか確保して合意したばかりなのに、それらもすべて明け渡すような TPP に入る意味は考えられない。
中国は、高関税品目も多いし、国家による規制も多いので、従来の FTA でも、難しい分野はごっそりと例外にするという大胆な柔軟性を維持して、お互いにやれるところからやりましょう、という方針を採っている。したがって、徹底した関税撤廃と独自の国内ルールの廃止を求められる TPP に参加することは、限りなく不可能に近い。
かつ、米国自身、「これは対中国包囲網だ。」と説明している。TPP が拡大して中国が孤立して入らざるを得なくなる、というようなシナリオが描かれているのかもしれないが、とても現実的とは思えない。


3. TPP に入らないと、韓国に先を越された日本の経済損失が取り戻せない
これは間違いである。冷静に見れば、米国の普通自動車の関税はすでに 2.5%でしかなく、現地生産も進んでいるのだから、韓国に先を越されると言っても日本の損失はわずかであろう。
TPP による日本にとっての経済利益が小さいことは、GTAP モデルの日本での権威である川崎研一氏の試算でも明らかである。FTA ごとに日本の GDP 増加率を比較すると、TPP で 0.54%、日中 FTAで 0.66%、日中韓 FTA で 0.74%、日中韓+ASEAN の FTA で 1.04%となっている。つまり、日本が参加して 10 ヵ国で TPP を締結しても、日中 2 国間での自由化の利益にも及ばない。アジアにおけるFTA が日本経済の発展にいかに有効であるかということである。
TPP によって得られる経済利益が尐ないことは、推進する方々もわかっているのだろう。だから、TPP の利益としては、具体的な分野になると、投資、金融、サービス等の規制緩和がベトナム等での日本企業の展開に有利になる、というくらいの指摘しか出てこない。しかし、これは、日本も米国から攻められるわけで、その分を途上国で取り戻すと言っても、「両刃の剣」であることは明らかである。
最終的に、かなり抽象的に、先述のような、「TPP がアジア太平洋地域の貿易ルールになるから、参加しないと孤立する」というような理由が語られるのである。


4. TPP 以外の FTA が具体化していないから、これしかない
これは間違いである。実は、日中韓 FTA の産官学共同研究会(事前交渉)は、2011 年 12 月に報告書作成作業を完了し、2012 年から政府間交渉に入る準備を進めている。いよいよ日中韓 FTA が具体的に動き出す。TPP のような極端なゼロ関税ではなく、適切な関税と適切な国内対策の組合せによって、全加盟国が総合的に利益を得られるような妥協点を見いだせる。
日本と EU との FTA も、交渉の範囲を確定する予備交渉が開始されることになった。日本やアジアにとって、米国やオーストラリアといった新大陸に比べて相対的に共通性の高い EU との FTA は真剣に検討する必要がある。EU は、適切な関税と適切な国内対策の組合せによって「強い農業」を追求する政策を実践しているので、TPP とは違い、農業についての着地点を見いだすことは可能であろう。
このように、柔軟性を望めないのに利益は小さい TPP ではなく、アジアや EU との、柔軟性があり、かつ、日本の輸出を伸ばせる可能性も大きい FTA を促進する方向性が、日本にとって現実的で利益も大きいと思われる。ただしその場合は、米国との関係悪化を回避しつつ進めなくてはならないという非常に難しいバランスも要求される。そもそも、日本は、米国と中国という 2 つの大国の間で微妙なバランスを保ちつつ発展していく必要がある。米国との関係が非常に重要であることは間違いないが、TPP に傾斜しすぎるわけにはいかないのである。現実的には、TPP の動向は注視しつつ、日中韓 FTAや日 EU・FTA の準備を進めるという選択肢が考えられる。


5. 「TPP おばけ」で根拠のない不安を煽っている
これは間違いである。TPP が今までの FTA と決定的に違うのは、関税撤廃などにおいて重要品目の例外扱いなどが原則的に認められない点である。また、非関税措置といわれる制度やルールの廃止や緩和、共通化も目指す。つまり、協定国の間に国境がない(シームレス)かのように、人やモノや企業活動が行き来できる経済圏を作ろうというのが TPP の目標である。
しかも、たとえば米国企業が日本で活動するのに障害となるルールがあれば、米国企業が日本政府を訴えて賠償請求とルールを廃止させることができる条項も盛り込まれる。いわゆる「毒素条項」と呼ばれ、NAFTA(北米自由貿易協定)でも、韓米 FTA でも入っている。経済政策や産業政策の自主的運営がかなりの程度制約される可能性も覚悟する必要がある。
基本的に、米国など外国企業が日本で活動する場合に、競争条件が不利になると判断される公的介入や国内企業への優遇措置と見なされる仕組みは廃止が求められるということである。したがって、郵政民営化は当然であるし、医療における公的医療保険も許容されないということになる。
ある面では、TPP は、EU(欧州連合)のような統合を、米豪と日本など、まったく異質な国が、数ヶ月で達成しようとしているようなものである。EU が形成されるのに費やされた 60 年という長い年月を考えれば、それと類似のレベルの経済統合を数ヶ月のうちに一気に達成しようという TPP の凄まじさがわかる。
現在 9 カ国が参加して交渉中の TPP は、すでに 2006 年 5 月にチリ、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイの 4 ヶ国で締結された P4 協定がベースになることも忘れてはならない。日本では、TPP がどのような協定になる可能性があるのかについて、政府は「情報がない」と言って国民に何も説明していないが、この P4 協定に近いものになるのだから、少なくとも P4 協定についてなぜもう少し国民に説明しないのかということが問われる。
P4 協定は 160 ページにも及ぶ英文の法律である。P4 協定は、物品貿易の関税については、ほぼ全品目を対象として即時または段階的に撤廃することを規定している。また、注目されるのは、政府調達やサービス貿易における「内国民待遇」が明記されていることである。内国民待遇とは、自国民・企業と同一の条件が相手国の国民・企業にも保障されるように、規制緩和を徹底するということである。たとえば政府調達では、国レベルだけではなく地方レベルの金額の小さな公共事業の入札の公示も英文で作り、TPP 加盟国から応募できるようにしなければならなくなる。サービス貿易については、金融、保険、法律、医療、建築などの各分野で、看護師、弁護士、医者等の受け入れも含まれることになるだろう。金融については P4 協定では除外されていたが、米国が参加して以降、交渉分野として加えられている。

もう一つ、参照すべきは、韓米 FTA である。米国は、日本が TPP の内容を考える上で、アジアとの直近の FTA として、韓米 FTA を参照してほしいと指摘している。つまり、TPP は、P4 協定、韓米FTA の内容を、さらに強化するものとなるということである。韓米 FTA では、投資・サービスの原則自由化(例外だけを規定する「ネガ」方式)、「毒素条項」に加え、エンジニア・建築家・獣医師の資格・免許の相互承認の検討、郵政・共済を含む金融・保険の競争条件の内外無差別化(公的介入、優遇措置の排除)、公共事業の入札公示金額の引き下げなども入っている(「付録」参照)。これらが、強化される形で、TPP で議論されることになる。
遺伝子組み換え食品についても、米国が安全だと科学的に証明している遺伝子組み換え食品に対する表示義務を廃止するよう我が国が求められるであろうことは、現在 9 ヵ国の TPP 交渉の中で、オーストラリアやニュージーランドが、すでに米国から同じ要求を受けていることからわかる。
また、以前から米国は、米国牛肉は BSE(狂牛病)検査をしっかりやっていて安全だから輸入規制はやめるよう主張している。だが、米国人の監督による米国食料市場に関するドキュメンタリー映画『フード・インク』を見てもわかるように、狂牛病の検査は十分に行われていない可能性が高い。だからこそ、日本は独自のルールを設定して国民の命を守っているのである。だが、TPP 参加とともに、それは駄目だという圧力が高まる。韓国は、韓米 FTA の協定の中ではなく、韓米 FTA をまとめるための「お土産」として、月齢規制を緩和した(なんと日本は、10 月に早々と自ら緩和表明し、服従姿勢を示し始めた)。

以上のように、根拠なしに不安を煽るような「TPP おばけ」ではなく、しっかりした根拠に基づいて、危険性を指摘しているのである。推進する方々の「アジア太平洋の貿易ルールに乗り遅れる論」「とにかく入って、いやなら脱退論」こそが、根拠のない「脅し」や意図的な詐欺である。


6. 例外は認められるから大丈夫、不調なら脱退すればよい
最近の TPP 推進議論でよく聞くのは、「とにかく入ってみて交渉すれば、例外も結構認められる。
不調なら交渉途中で離脱すればよい」といった根拠のない「とにかく入ってしまえ論」である。しかし、「すべて何でもやります」という前提を宣言しないと、TPP 交渉には入れない。カナダは、「乳製品の関税撤廃は無理だが、交渉に入りたい」と言って門前払いになっている(一応は「全ての品目を交渉の対象にする」と伝えたが、「乳製品の問題にカナダが真剣に取り組むという確信が持てない」という指摘が既参加国からあり、認められなかった可能性もある)。
ただ、米国を含めた世界各国が、国内農業や食料市場を日本以上に大事に保護している。たとえば乳製品は、日本のコメに匹敵する、欧米諸国の最重要品目である。米国では、酪農は電気やガスと同じような公益事業とも言われ、絶対に海外に依存してはいけないとされている。でも、米国は戦略的だから、乳製品でさえ開放するようなふりをして TPP 交渉を始めておいて、今になって、米豪 FTAで実質例外になっている砂糖と乳製品を、TPP でも米豪間で例外にしてくれと言っている。オーストラリアよりも低コストのニュージーランド生乳については、独占的販売組織(フォンティラ)を不当として、関税交渉の対象としないよう主張している。つまり、「自分より強い国からの輸入はシャットアウトして、自分より弱い国との間でゼロ関税にして輸出を増やす」という、米国には一番都合がいいことをやろうとしている。
こうした米国のやり方にならって、「日本も早めに交渉に参加して例外を認めてもらえばいい」と言っている人がいるが、もしそれができるなら今までも苦労していない。米国は、これまで自身のことを棚に上げて日本に要求し、それに対して日本はノーと言えた試しはない。特に TPP は、すべて何でもやると宣言してホールドアップ状態で参加しなくてはならないのだから、そう言って日本が入った途端にもう交渉の余地はないに等しい。この交渉力格差を考えておかなければならない。米国は、輸出倍増・雇用倍増を目的に TPP に臨んでいるから、日本から徹底的に利益を得ようとする。そのためには、たとえばコメを例外にすることを米国が認める可能性は小さい。交渉の途中離脱も、理論的に可能であっても、実質的には、国際信義上も、力関係からも、不可能に近い。

また、「例外が認められる」と主張する人の例外の意味が、「コメなら関税撤廃に 10 年の猶予があるから、その間に準備すればよい」という場合が多い。これは例外ではない。現場を知る人なら、日本の稲作が最大限の努力をしても、生産コストを 10 年でカリフォルニアのような 1 俵 3,000 円に近づけることが不可能なことは自明である。現場を知らない空論は意味がない。
なお、日豪 FTA はすでに政府間交渉をしており、多くの分野で例外措置を日本側も主張しているが、その日本が TPP では、同じオーストラリアに対して例外なしの自由化を認める、というまったく整合しない内容の交渉を同時並行的に進めることが可能なのか、この矛盾に直面する。かりに、米国の主張にならって、既存の FTA 合意における例外は TPP に持ち込めるから、日豪 FTA などを既存の2国間合意を急げばよい、という見解もあるが、それでは TPP というのは一体どういう実体があるのかということになる。


7. 所得補償すれば関税撤廃しても大丈夫
「所得補償すれば関税撤廃しても大丈夫」という議論があるが、これも間違っている。現状のコメに対する戸別所得補償制度は、1 俵(60kg)当たり平均生産コスト(13,700 円)を常に補償するものではなく、過去 3 年平均価格と当該年価格との差額を補てんする変動支払いと、1,700 円の固定支払いによる補てんの仕組みであるから、米価下落が続けば補てんされない「隙間」の部分が出てくる。
したがって、TPP でコメ関税を 10 年間で撤廃することになれば、さらなる米価下落によって「隙間」の部分がますます拡大していく。
もし、平均生産コストを全額補償する「岩盤」をコメ農家に手当すると想定すればどうなるか。たとえば、コメ関税の完全撤廃後も現在の国内生産量(約 900 万トン)を維持することを目標として、1俵当たり 14,000 円のコメ生産コストと輸入米価格 3,000 円との差額を補てんする場合の財政負担額を試算してみると、

<コメ関税ゼロの場合> (14,000 円-3,000 円)÷60 キロ× 900 万トン=1.65 兆円

となる。概算でも約 1.7 兆円にものぼる補てんを毎年コメだけに支払うのは、およそ現実的ではないだろう。牛乳・乳製品や畜産物などコメ以外の農産物に対する補てんも含めると、財政負担は少なくともこの 2 倍近くになる可能性がある。さらには、1 兆円近くに及ぶ関税収入の喪失分も別途手当てしなくてはならないことを勘案すれば、毎年 4 兆円という、ほとんど不可能に近い多額の財源確保が必要となる。

これほど膨大な財政負担を国民が許容するならば、環境税の導入、消費税の税率の引上げなどによる試算から、具体的な財源確保の裏付けを明確にし、国民に約束しなければならない。もし空手形になれば国民に大きなリスクをもたらし、世界から冷笑される戦略なき国家となりかねない。「とりあえず TPP に参加表明し、例外品目が認められなければ所得補償すればよい」といった安易な対応は許されないのである。
一方、もし TPP が関税撤廃の例外を認める形で妥結される可能性があるならば、それを踏まえた現実的な議論の余地も生まれる。たとえば、コメの例外扱いが認められて関税率が 250%とされた場合は、補てんのための財政負担額は、

<コメ関税 250%の場合> (14,000 円-10,500 円)÷60 キロ× 900 万トン=5,250 億円

となる。
ただし、以上の試算で用いた輸入米価格 3,000 円という仮定が低すぎるのではないかとの指摘もあるだろう。たとえば、平成 22 年の中国産 SBS(売買同時入札方式)米の入札価格は玄米換算で 8,550円に達しているので、輸入米価格を 9,000 円程度と見込めば、

<高い輸入米+関税ゼロの場合> (14,000 円-9,000 円)÷60 キロ× 900 万トン=7,500 億円

となる。さらに、関税撤廃を 10 年で行う猶予がある場合、その間の構造改革によって補てん基準の生産コストを 10,000 円まで引き下げられると見込めば、

<構造改革を見込んだ場合> (10,000 円-9,000 円)÷60 キロ× 900 万トン=1,500 億円

と、許容範囲の財政負担におさまることも考えられる。こうした試算が、ゼロ関税でも対応可能だという根拠として出されてくるであろう。
しかし、福岡県稲作協議会の黒竜江省調査(2010 年 7 月 30 日~8 月 4 日)によると、現地のコメ輸出会社が受け取っている日本向け輸出価格は 1 キロ当たり 3.6~3.8 元(約 54~57 円)、1 俵当たりで約 3,200~3,400 円程度であり、SBS で 9,000 円程度となっている現在の価格は、輸入枠があるため中国側がレント(差益)をとる形で形成された高値と判断できる。したがって、輸入枠が撤廃されればレントを維持できなくなることを考えると、輸入価格を現状の 9,000 円のままと見込むのは危険である。
また、農水省資料によれば、各国の米価は、米国 2,880 円、中国 2,100 円、オーストラリア 2,640 円(2008 年の玄米換算 1 俵当たり生産者受取価格)となっている。TPP については、中国産ではなく、米国産との比較が必要だが、米国産でも輸入米は 3,000 円程度を目安にした方がよいと思われる。

それから、先述のとおり、「ゼロ関税になるまでに 10 年間の猶予があれば、それまでに規模拡大して生産コストを下げれば、補てんの負担は大幅に縮小される」という議論もあるが、机上の試算を勝手にされても困る。規模拡大やコストダウンの努力はもちろん必要だが、日本のこの土地条件で、10年間で米の生産コストを半分にできるかというと、非常に難しい。
すると、次に出てくるのは、「補てん財源が足りなければ、補てんの対象を大規模農家などに絞ればいい」という主張である。これでは、日本全国に広がる中山間地の農村はどうなるのか。慎重な配慮が求められる。
また、以上の試算では、国内生産量を現状水準で維持することを前提としているが、もし「新基本計画」が掲げている食料自給率 50%への引き上げ目標も同時に達成するならば、さらに膨大な財政負担が必要になる。関税撤廃が可能かどうか、あるいはどこまで引き下げることが可能かについては、必要な財政負担額とセットで検討する必要がある。そうした検討もなく、所得補償するからゼロ関税でも大丈夫と言うのも、コメ関税は一切手をつけられないと言うのも極論であり、現実的な解は、その中間のどこかに、適切な関税水準と差額補てんとを組合せることによって見いだすことができると思われる。しかし、そうした柔軟性は TPP には望めない。


8. 日本のコメは品質がよいし、米国やオーストラリアの短・中粒種のコメの生産力はそれほど高くないので、関税撤廃しても、日本のコメ生産が極端に減尐することはない。
これは間違いである。カリフォルニア米が比較的おいしいというのは、米国滞在経験者なら、共通認識であり、値段とのバランスを考えれば、広く日本の消費者に受け入れられる可能性は高い。
確かに、短・中粒種のコメ生産力が世界にどれだけあるのかについては慎重に検討すべきであるが、たとえば、オーストラリアは今、水の問題でコメは 5 万トンくらいしか生産できていないが、過去には、日本でもおいしく食べられるコメを 100 万トン以上作っていた。中国では、黒竜江省だけでも日本の全生産量とほぼ同じ 800 万トンのコシヒカリを作っている。オーストラリアも米国もそうだが、どの国でも、日本でのビジネス・チャンスが広がれば、生産量を相当に増やす潜在力があるし、日本向けの食味に向けての努力も進むであろう。米国も短・中粒種はカリフォルニアしかつくれないわけでなく、日本で売れるビジネス・チャンスが広がれば、アーカンソーでも生産できる。そうなれば、生産力は格段に高まる。だから、供給余力の推定や品質向上の度合いの推定はなかなか難しい。ただ、普段は、ビジネス・チャンスに応じて経営は対応してくることを重視する人達が、こういう場合だけ、現状固定的に、日本の品質はよいし、外国の生産力は小さい、と主張するのは、やや首をかしげる。
いずれにしても、時間の経過とともに変わってくるし、不確定な要素が非常に多いので、日本のコメ生産が 9 割減尐するとも言い切れないし、ほとんど減らないとも言えない。だからこそ、ゼロか百かの議論ではなく、極端な TPP ではなく、アジアにおいて柔軟かつ互恵的な自由貿易協定を拡大する路線が現実的だということである。


9. 貿易自由化して競争すれば強い農業ができる
これは間違いである。大震災で被災した東日本沿岸部に大規模区画の農地をつくって競争すればTPP もこわくない、という見解もあるが、それでも、せいぜい2ha 程度の1区画である。それに対して、TPP でゼロ関税で戦わなければならないオーストラリアは、1区画 100ha ある。農家一戸の適正規模は 1 万ヘクタールというから、そもそも、まともに競争できる相手ではない。土地条件の格差は、土地利用型農業の場合は絶対的で、努力すればどうにか勝てるという話ではない。車を工場で造るのと一緒にしてはならない。牛肉・オレンジなどの自由化も、牛肉や果物の大幅な自給率低下につながったことを思い起こす必要がある。
だから、TPP のような徹底した関税撤廃は、強い農業を生み出すのではなく、日本において、強い農業として頑張っている人達を潰してしまうのである。コメで言えば、日本で 1 俵 9,000 円の生産コストを実現して大規模経営している最先端の経営も、1 俵 3,000 円のコメがゼロ関税で入ってきたらひとたまりもないのは当然である。欧州の水準を超えたというほどに規模拡大した北海道酪農でも、平均コストは 1kg70 円くらいであり、1kg19 円のオセアニアの乳価と競争できるわけがない。残念だが、これが、土地条件の差なのである。

[写真] 西オーストラリアの小麦農家-この 1 区画で 100ha


10. 競争を排除し、努力せずに既得権益を守ろうとしいては、効率化は進まない
誰も、努力せずに既得権益を守ろうとしているわけではない。TPP のように、極端な関税撤廃や制度の撤廃は、一握りの勝者と多数の敗者を生み、一握りの勝者の利益が非常に大きければ、大多数が苦しんでも、社会のトータルとしては効率化された、という論理の徹底であり、幸せな社会とは言えない。
医療と農業は、直接的に人々の命に関わるという点で公益性が高い共通性がある。筆者は米国に 2年ほど滞在していたので、医療問題は切実に感じている。コーネル大学にいたが、コーネル大学の教授陣との食事会のときに 2 言目に出てくるのは、「日本がうらやましい。日本の公的医療制度は、適正な医療が安く受けられる。米国もそうなりたい」ということだった。ところが、TPP に参加すれば、逆に日本が米国のようになる。日本も米国のように、高額の治療費を払える人しか良い医療が受けられなくなるような世界になる。地域医療も今以上に崩壊していくことは明らかである。混合診療が全面解禁されれば、歯では公的保険適用外のインプラント治療ばかりが進められ、低所得層は歯の治療も受けられない、という事例(九州大学磯田宏准教授)はわかりやすい。
TPP の議論を契機に、また市場至上主義的な主張が強まっている。確かに、既得権益を守るだけのルールは緩和すべきだが、だからルールは何もない方がいいというのは、人類の歴史を無視した極論である。経済政策学者が政策はいらないと言うのは、ほとんど自己否定していることになる。All or Nothing(ゼロか 100 か)ではなく、その中間の最適なバランスを見つけるべきである。


【Part2】http://threechords.blog134.fc2.com/blog-entry-1190.htmlに続く


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