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中野剛志氏【視点・論点】「TPP参加の是非」《文字おこし》~TPPは日本にとって何のメリットもありません~

中野剛志氏【視点・論点】「TPP参加の是非」文字おこし



「TPPとは農業や工業の関税の完全な撤廃のみならず、金融・労働・環境・衛生など、広範囲にわたって外国企業の参入障壁の撤廃を目指す国際協定です。
現在、9カ国が交渉に参加して交渉を行っているところであり、日本はこの交渉への参加を検討しています。しかし、このTPPの交渉に参加することは一般に思われているよりもずっと危険なことなのです。

 第一に、TPPへの参加は東日本大震災からの復興の妨げになります。
東北の被災地は農業の盛んな地域です。農家の方々はこれから多額の費用をかけて農地を復興していかなければなりません。しかし、もし将来、TPPに参加して農業経営が厳しくなるかもしれないと思ったら、被災した方々は復興に向けての気力を失うでしょう。現に宮崎県の畜産農家の中には、口蹄疫の被害のあと、畜産を再開しようとしたけれどTPPの問題が持ち上がったので辞めてしまったところがあるそうです。TPPへの参加のみならず、TPP交渉への参加を検討していることだけでも、被災した農家に不安を与え、復興の妨げになっています。
 野田内閣は復興を最優先課題としていましたが、そうであるならTPP交渉参加の検討も中止すべきではないでしょうか。

 第二に、TPPは日本にとって何のメリットもありません。
TPPへの参加によってアジア太平洋新興国の成長を取り込める、というような意見がありますが、間違っています。
この図をご覧ください。20111030185255.jpg

これはTPP交渉に参加している9カ国に日本を加えた10カ国の経済規模の比率をグラフにしたものです。すると、アメリカが約70%日本が約20%、そしてオーストラリアが約4%、残り7カ国を合わせてたった約4%です。ですから、日本企業が輸出できるアジア市場などないのです。
日本が参加してTPPは日米で9割を占めます。中国もインドも韓国もTPPには入っておらず、入る予定もありません。従って、TPPに参加してアジアの成長を取り込むことなどできません。
TPPとは実質的に日米貿易協定なのです。
TPP参加国の中で、日本が輸出できそうな市場はアメリカだけです。しかし、アメリカの関税は低く、例えば自動車の関税は2.5%に過ぎませんので、これを撤廃してもらってもあまり意味はありません。しかも、日本企業はグローバル化し、アメリカでの現地生産を進めていますので、関税があってもなくても競争力とはほとんど関係がありません。また、アメリカは失業率が高く、深刻な不況にあり、アメリカに輸出してもモノは売れません。それどころか、オバマ政権は貿易赤字を削減するため、2014年までに輸出を倍増する戦略を打ち出しています。これは1ドル70円程度の円高ドル安がないと達成できない戦略です。アメリカは円高ドル安を望んでおり、実際、円高ドル安が進行しています。関税撤廃の効果など円高が進めば消えてしまいます。
従って、日本はTPPに参加してもアジアにもアメリカにも輸出を伸ばすことはできないのです。
さて、輸出倍増を掲げるアメリカですが、先ほどの図にあるようにTPPでアメリカが輸出を増やせそうな国は日本しかありません。つまり、アメリカはTPPによって日本の市場を獲得することを狙っているのです。

 第三に、日本はTPPに参加しないと世界の潮流から取り残される、とか、鎖国になる、とかいった懸念が聞かれますが、それも間違いです。
次の図をご覧ください。20111030190734.jpg

青い棒グラフはすべての品目の関税率ですが、日本の平均関税率は韓国よりもアメリカよりも低いのです。そして、農産品の関税率についても韓国よりもずっと低く、EUよりも低いのです。しかも日本は食料の自給率が低いのですから、農業市場は十分に解放されているわけです。
また、日本はすでに12の国との間で経済連携協定を結んでいます。日米関係は十分に自由貿易です。そして、TPPは実質的に日米協定であり、中国もインドも韓国もEUも参加していません。日本はTPPに参加しなくても世界から取り残されることなどありえません。これ以上、日本は海外からの食糧輸入を増やしてもよいのでしょうか。現在、世界的に食料の値段が高騰し、ソマリアではたくさんの人々が飢えに苦しんでいます。日本のように豊かな国が食糧の輸入を増やしたら、食料の値段はもっと上がり発展途上国の貧しい人々はもっと苦しむのではないでしょうか。
また、安い食糧の輸入が増えたら、国内の農業や食品産業で競争が激化し、価格引き下げ競争が始まります。これはデフレをもっとひどくすることになります。
給料は下がり、失業者は増え、不況は深刻化するでしょう。安い製品の輸入は一軒よいことのように見えますが、実はデフレのときにはデフレをもっとひどくすることになるのです。

 第四に、TPPの問題点は農業だけではありません。現在、TPPの交渉は農業以外にも、金融・投資・労働規制・衛生・環境、知的財産権、政府調達など、合わせて24もの分野があります。
TPPは日本の食糧だけではなく、銀行・保険・雇用・食の安全・環境規制・医療サービスなど、国民生活のありとあらゆるものを変えてしまいかねません。
特にアメリカは、日本の保険制度をアメリカの保険会社に有利なように変えることを求めてきています。実際、アメリカは昨年、韓国との自由貿易協定に合意しましたが、この自由貿易協定の結果、韓国は、例えば共済保険を3年以内に解体することになりましたし、自動車の安全基準や環境規制についてもアメリカ企業に有利になるように変えていかなくてはなりません。
このように、TPPに参加すると自分たちの国の基準によって国民の健康や安全を守ることが出来なくなってしまうのです。

最後に、政府の一部に、まずはTPPの交渉に参加してみて、どうしても譲れない部分があるなら交渉から離脱すればよい、と言ってTPPの交渉参加を促す声があります。しかし、TPPへの参加が結婚ならば、TPPの交渉参加とは、言わば婚約のようなものです。
交渉参加とは、参加を前提としたお付き合いなのです。
ですから、一旦、多国間交渉に参加して、そこから離脱した、という国の例はほとんどありません。特にTPPは先ほど申し上げましたように実質的に日米協定です。従って、もし日本が一旦交渉に参加しながら途中で抜けたらどうなるでしょう。アメリカは裏切られた格好になり、日米関係は非常に悪化します。アメリカ以外の国々からも信頼を失います。ですから、TPPの交渉に一旦参加したら、どんなにルールが不利になろうと離脱することはできなくなってしまうのです。

1911年、日本は小村寿太郎の活躍によって不平等条約を改正し、関税自主権を回復しました。それからちょうど100年後の今年、その関税自主権を放棄する、などという歴史を私たちは後世に語り継いでいけるのでしょうか

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