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2011年3月22日日経ビジネスより転載【「日本こじ開け戦略」とここまで一致~FTA/EPAで十分なはず、アメリカの思惑はどこに?】三橋貴明

*転載
「日本こじ開け戦略」とここまで一致
FTA/EPAで十分なはず、アメリカの思惑はどこに?http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110310/218923/
三橋 貴明   バックナンバー2011年3月22日(火)
 前回まで、TPP(環太平洋経済連携協定)の本質は、アメリカの雇用創出を目的とした日本への「規制緩和要求」あるいは「構造改革要求」であると述べてきた。この種のアメリカからの要求が始まったのは、1980年代の日米貿易摩擦以降であるが、その目的は一貫している。すなわち、「アメリカの」対日輸出を伸ばし、「アメリカ人の」雇用を創出することである。ここで言う輸出とは、もちろん製品の輸出に限らない。
 国内総生産(GDP)上において、輸出は加算項目で、輸入は控除項目だ。すなわち、輸出をすることは相手国の需要を奪い取る行為で、輸入とは自国の需要を献上する行為になるのである。良い悪いの善悪論を論じているのでなく、GDP統計上、そうなるというだけの話だ。
 そして、他国から製品やサービスを輸入すると、「自国では作らない」ということになる。逆に「自国で作る」場合は、自国民が働く必要があるわけだ。当然の結果として、輸出が増えれば自国の失業率は減少する。また、輸入が増えれば失業率は高まる。

自らの故郷でTPPの成果を誇りたいオバマ大統領
 さて、2期目を狙うアメリカのオバマ大統領は、今年11月にハワイのホノルルで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)開催までに、TPPを妥結に持ち込みたいと考えている。何しろ、ホノルルはオバマ大統領が生まれ育った故郷だ。自らの故郷で「アメリカ人の雇用創出に貢献する」TPPの成果を誇り、支持率の上昇につなげたいわけである。
 オバマ大統領自身が一般教書演説で述べたように、現在のアメリカにとって、TPPなど貿易協定の目的は、
「米国人労働者を守り、米国人の雇用創出につながるものに限る」
というわけだ。非常に分かりやすい。今回のアメリカの手法は実にオープンで、ある意味でフェアと言える。
 菅政権はTPPについて「6月までに協議に参加するかどうか、結論を出す」と言っている。だが、11月にオバマ大統領が「故郷に錦を飾る」というスケジュールが決まっている状況において、協議途中で参加を断念するなどの決断が、本当に可能なのだろうか。
 と言うよりも、国益のために協議途上で不参加を決断できるような政権であれば、「平成の開国」などというスローガンベースで事を進めたりはしまい。24の作業項目や既存の(4カ国締結済みの)TPP協定をきちんとオープンにし、国民に情報を共有させた上で議論を行い、参加の是非を決断するはずだ。
 例えば、以下のような情報についても、マスコミに流れないのはもちろん、政治家も全くと言っていいほど口にしない。恐らく、ほとんどの日本の政治家は、以下の情報について知らないのではないだろうか。
 すなわち、TPP加盟国、及び加盟検討国と日本との間の貿易協定の現況である。

図6-120111203105259.jpg 

 何と、TPP加盟国及び加盟検討国のうち、シンガポール、チリ、ブルネイ、マレーシア、そしてベトナムとの間では、日本はすでにEPA(経済連携協定)を結んでいるのである。また、ペルーとのEPAについて、両国が昨年11月に合意に至り、今年中に発効する予定になっている。(どうでも良い話だが、日本とFTA/EPAを結んでいない3カ国は、見事なまでにアングロサクソン国である。)

 EPAとは、製品やサービスの貿易以外にも、人の移動や2カ国間協力なども含めて締結される、包括的な貿易協定だ。FTAが製品とサービスの貿易の自由化であるのに対し、EPAはより広い分野に渡る自由化を実現するわけである。(さすがにTPPほど、分野が多岐にわたるわけではないが)
「TPPでアジアの活力を取り込む」
 などと主張する人がいるが、別にTPPに加盟せずとも、同協定の「アジアの加盟国、加盟検討国」のすべてとの間で、日本はすでにEPAを締結しているのである。EPA締結時には、当然ながら両国の国益を吟味し、国内への影響が「過激」にならないように協議を重ねた上で締結する。例えば関税引き下げの期限も、ものによっては10年以上先になるケースも少なくない。関税引き下げ実現まで「猶予期間」を取ることで、国内の調整を図りつつ、自由化を実現しようとするわけである。

日本は既にFTA/EPA戦略というバスに乗っている
 例えば、日本がアメリカとFTAなりEPAを検討するというのであれば、筆者は全く反対しない。日米両国が共に自国のために製品やサービス、それに自由化の時期について協議を重ね、貿易協定を締結すればいいだけの話だ。
 ところが、TPPは自由化対象の製品やサービスの対象が極端に広く、関税引き下げなどの期日も極めて近い将来(原則2015年)に設定される。さらに、前回ご紹介した通り、自由化が求められる範囲も、過激と表現しても構わないほどに広い。加えて、既存のTPPでは自由化対象外になっていた金融や投資までもが、いつの間にか作業部会に入り込んでいるのである。
 話を整理するが、日本はTPP加盟国についてはシンガポール、チリ、ブルネイとEPAを締結している。加盟検討国についても、マレーシア、ベトナム、ペルーとの間でEPAを結んでいる(ペルーは合意段階)。すなわち、これらのTPP関連6カ国とは、すでに「日本の国益を考慮し、協議を重ねたEPA」を締結しているのだ。なぜ、この上、わざわざ「過激なEPA」と言えるTPPを推進し、自由化の範囲を拡大しなければならないのだろうか。
 この種の話が出てくると、必ず、
「バスに乗り遅れるな」
などと言い出す人がいる。しかし、既に日本はFTA/EPA戦略というバスに乗っているのである。今後の日本が、粛々と米豪、及びニュージーランドと「自国の国益を考えて」FTAなりEPA締結を目指せば、それで話は済んでしまうのだ。「過激な自由貿易協定」であるTPPに、「平成の開国」などというスローガン頼みでチャレンジする必要など全くない。

 ところが、豪州やニュージーランドはともかく、日米FTAとなると、即座にアメリカ議会が猛反対し、なかなか話が前向きに進まない。なぜ、アメリカの議会が日米FTAに反対するのかと言えば、もちろん「自国の雇用に悪影響を与える」と考えるためである。誰が考えるのかと言えば、アメリカの議員たちで、彼らは日本とFTAを結ぶと「地元の雇用」に悪影響が生じると判断しているわけである。

アメリカとは、本当に分かりやすい国だ
 さて、日米FTAには極めて後ろ向きにも関わらず、アメリカはなぜTPPについては、かくも日本を巻き込むことに熱心なのだろうか。一般教書演説で「自国の雇用優先」と明言したオバマ大統領同様に、アメリカ国内でTPPを担当しているUSTR(米国通商代表部)も、極めてオープンである。
 アメリカの通商代表部は、毎年3月に通商政策のアジェンダを公表する。その中に、TPPに日本を引き入れたい「アメリカの思惑」が、きちんと書いてあるのだ。


参考:【2011 Trade Policy Agenda and 2010 Annual Report
 上記2011の通商政策アジェンダから引用する。

英文:
The United States continued to engage Japan on a broad array of trade and trade-related issues throughout 2010, with the goal of expanding access to and opportunities in Japan's market.
In late 2010, the United States and Japan agreed to launch the U.S.-Japan Economic Harmonization Initiative as a new, regular forum for bilateral engagement on trade and economic issues.(中略)
The United States and Japan agreed in late 2010 to begin bilateral consultations related to Japan's interest in the Trans-Pacific Partnership (TPP) process, as Japan considers whether it will formally seek TPP membership.
日本語訳:
アメリカ政府は2010年を通じ、日本市場におけるアクセスと機会を拡大するために、日本に対し貿易及び貿易関連の問題を幅広く検討させることを続けた。
2010年後半、米国と日本は、貿易及び経済問題などの2国間関係を話し合うために、新しい、かつ定期的なフォーラムとして、日米経済調和対話を開始することに合意した。(中略)

アメリカ及び日本は、2010年後半、日本がTPP参加するかどうか公式に検討する際に、TPPプロセスへの日本の関心に関連する2国間協議を始めることに同意した。
 アメリカの通商代表部は、上記の通り「日米経済調和対話」及びTPPについて、「(アメリカの)日本市場におけるアクセスと機会を拡大するため」と明言しているわけである。「日米経済調和対話」とは、89年の日米構造協議、93年の日米包括経済協議、94年以降の年次改革要望書に続く、「アメリカが日本に市場開放を要請する場」というわけである。アメリカとは、本当に分かりやすい国だ。
 実際、2月28日から3月4日まで、アメリカからUSTRの担当者が来日し、第一回日米経済調和対話が開催された。2月の時点で、アメリカの「関心事項」は日本側に伝えられていたわけだが、その内容が実に明々白々なのだ。

参考:【日米経済調和対話

日本の「国の形」が変わるほどの構造改革
 以下のアメリカの「関心事項」は、前回ご紹介した「図5-1 TPPの24の作業部会」と見比べながら、読み進めて欲しい。以下はあくまで項目だけであるため、詳細を知りたい方は上記【日米経済調和対話】のページにアクセスして欲しい。

 以下、アメリカの「関心事項」について、項目別に整理したものだ。


◆ 通信:周波数、支配的事業者規制、移動体接続料、透明性、国際協力
⇒TPPの24の作業分野における「サービス(電気通信)」など
◆ 情報技術:政府のICT調達、医療IT、クラウド・コンピューティング、プライバシー
⇒TPPの24の作業分野における「サービス(電気通信)」「政府調達」など
◆ 知的財産権:技術的保護手段、著作権保護期間の延長、オンライン上の海賊行為、エンフォースメント手段、保護の例外、特許法と手続き、透明性、日米協力
⇒TPPの24の作業分野における「知的財産権」など
◆ 郵政:保険と銀行サービスにおける対等な競争条件、郵政改革、日本郵政グループの金融会社の業務範囲、国際エクスプレス輸送における対等な競争条件
⇒TPPの24の作業分野における「サービス(金融)」など
◆ 保険:共済、保険の窓口販売、生命保険契約者保護機構(LIPPC)、外国保険会社の事業の日本法人化、独立代理店
⇒TPPの24の作業分野における「サービス(金融)」「投資」など
◆ 透明性:パブリックコメント手続き(PCP)、審議会など、規則の解釈
⇒TPPの24の作業分野における「制度的事項」「紛争解決」など
◆ 運輸・流通・エネルギー:自動車の技術基準ガイドライン、再生可能エネルギーに関する規制制度、申告のための通関事務所の選択、税関職員の共同配置、免税輸入限度額
⇒TPPの24の作業分野における「市場アクセス(工業)」「環境」など
◆ 農業関連課題:残留農薬および農薬の使用、有機農作物、食品添加物、ゼラチン
⇒TPPの24の作業分野における「市場アクセス(農業)」「SPS(検疫及びそれに付随する措置)」など
◆ 競争政策:執行の有効性、手続きの公正性、談合
⇒TPPの24の作業分野における「競争政策」など
◆ ビジネス法制環境:国境を越えたM&A、コーポレートガバナンス、法務サービス
⇒TPPの24の作業分野における「投資」「サービス(クロスボーダー)」など
◆ 医薬品・医療機器:
・ 医薬品・その他:新薬創出・適応外薬解消等促進加算、市場拡大再算定、外国平均価格調整(FPA)ルール、14日の処方日数制限、ドラッグ・ラグ、行政審査期間、手数料、血液製剤、
・ ワクチン:ワクチンに対するアクセス、透明性、ワクチンに関する意見交換
・ 医療機器:外国平均価格調整(FAP)ルール、体外診断薬(IVD)に関する保険償還、大型医療機器に対するC2 保険適用プロセス、デバイス・ラグおよびギャップの解消、企業に対する薬事規制負担の軽減
・ 化粧品:医薬部外品、広告・表示、化粧品・医薬部外品の輸入、その他透明性・規制問題
・ 栄養補助食品:規制分類と表示、健康食品安全規制、食品添加物
⇒TPPの24の作業分野における「サービス(クロスボーダー)」「SPS(検疫及びそれに付随する措置)」「TBT(貿易上の技術的障害)」など

 日米経済調和対話におけるアメリカの「関心事項」が、TPPの24の作業項目と、見事に一致しているわけだ。ご丁寧なことに、TPP作業項目に新たに追加された「金融」や「投資」も、関心事項の中にきちんと含まれている。と言うよりも、そもそもアメリカの日本市場における関心事項の中に「金融」と「投資」があったからこそ、TPP作業部会にこの2つが追加されたというのが真実だろう。
 これほどまでに広範囲の「規制緩和」「構造改革」を、極めて短期間に日本に押し付けることができるのであれば、日米FTAには反対のアメリカ議会も納得せざるを得まい。日米FTAであれば、協議を重ねた上で両国が「妥協」していく必要があるわけだが、TPPにうまく日本を引き込めれば、上記を一気に実現することができるのである。
 アメリカは日本市場を「こじ開け」、自国の雇用改善という目標達成に一歩近づき、オバマ大統領は11月にホノルルで成果を誇り、日本は「国の形」が変わるほどの構造改革を、極めて短期間に強いられるというわけだ。
 これが「TPPの真実」である。
 アメリカ議会が「過激な日米FTA」たるTPPに納得しそうな理由が、もう1つある。すなわち、TPP加盟国及び加盟を検討している国々は、すべて日本と国家構造や経済モデルが異なっているという点である。

日本の味方は1カ国もない
 例えば、TPP加盟国、加盟検討国の中に、単一民族で、かつ本格的な製造業を持つ内需大国は日本しかない。
 アメリカ、豪州、ニュージーランドは農業大国で、ブルネイは王政の資源国。シンガポールは都市国家であり、ベトナム、マレーシア、チリ、及びペルーは低賃金労働を売りにした国々。各国とも、輸出依存度が極端に高い、外需依存国だ。
 さらに、アメリカ、豪州、ニュージーランドは移民国家である。日本と似た「国の形」を持つ国は、1つもない。
 すなわち、日本がTPPのルール作りに参加し、自国の国益のためのルールを主張しようとしても、「組める国」が1つもないのである。6月にTPP協議への参加を決定し、いざ作業部会に乗り込んだところで、味方は1カ国もないというわけだ。
 逆に、アメリカには「組める国」が複数ある。これほどまでに有利な環境が整えられ、かつ「短期間に日本市場をこじ開ける」を実現できるのであれば、アメリカ議会も総立ちで、オバマ大統領に拍手をするのではないだろうか。
 加えて、アメリカは今回のTPPに関連し、ゴールまでのスケジュールを明確に定めている。すなわち、今年の11月、ホノルルで開催されるAPECである。日本がTPP協議に6月に参加し、厳しい情勢を理解したところで、そう簡単に「いち抜けた」はできない。くどいようだが、11月のホノルルにおけるAPECは、オバマ大統領の晴れ舞台なのだ。アメリカ大統領が故郷で錦を飾ろうとしているときに、後ろ足で砂を掛けるような真似が日本政府にできるとは、到底思えない。

アメリカの要求はごくごく当たり前の話
 ちなみに、筆者は別に反米でもなければ、アメリカに対して怒っているわけでもない。アメリカは単純に、自国の国益のために最も適切なソリューション(解決策)を選択しようとしているだけだ。
 アメリカが自国の国益、具体的に書くと、雇用改善のために日本に規制緩和や構造改革を要求するのは、ごくごく当たり前の話だ。現時点においては、それこそがアメリカの国益に即しているのである。
 筆者は日本政府、いや日本国民に一言だけ言いたいだけだ。そろそろ、日本国民も「平成の開国」とやらのスローガンに踊らされず、「日本の国益」を考えるべきではないだろうか。


以上、転載終わり

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