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【アメリカの「誰が」推進したいのか~国民に、目隠しをしたまま交差点を渡らせてはならない】三橋貴明2011年4月4日日経ビジネスより転載

*転載アメリカの「誰が」推進したいのか
国民に、目隠しをしたまま交差点を渡らせてはならないhttp://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110331/219249/
三橋 貴明   バックナンバー2011年4月4日(月)

 本連載は今回が最終回である。
 民主党の菅直人内閣は、参院予算委員会において、環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題について、当初の6月判断を先送りする考えを示した。東日本大震災という大災害からの復興という、喫緊の課題に直面している以上、当然である。
 とはいえ、経済産業省や外務省、及び日本国内のTPP推進派は、TPPについて諦めたわけでも何でもない。95年の阪神大震災後に、一気に日本で各種の規制緩和が進んだことを思うと、半年以内に、
「震災から復興するためにも、日本経済の強化が必要だ」
などの、イメージ優先の理屈を編み出し、「復興のためにこそ、TPP推進」といった論調が、新聞に載り始めることになるだろう。日本国民は、今こそイメージにとらわれることなく、冷徹な視線でTPPをはじめとする各政策について理解しなければならない。

4カ国締結済み協定が公開されていない
 本連載第1回より、筆者はTPPについて「平成の開国です」などとイメージ優先で事を進める政府を批判してきた。もちろん、各種の情報がきちんとオープンにされ、国民的な議論が巻き起こった上で、日本国民がTPPを選択するというのであれば、それはそれで構わない。
 とはいえ、現実には(信じられないことに!)いまだにTPPの現行協定、いわゆる「P4協定」の正式な日本語版がオープンにされていないのだ。今さらであるが、TPPとは「これから結ばれる協定」などではない。シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4カ国が、すでに締結済みの協定なのだ。4カ国が締結済みP4協定を国民に公開することは、この種の協定を検討する際には基本中の基本であろう。

 ところが、故意なのかどうかかは知らないが、民主党政権はいまだに現行のP4協定について明らかにせず、「平成の開国です」などと、イメージを優先させることを続けている。国民は現行協定を日本語で読むことなく、「平成の開国」などのフレーズを頼りに、TPPについて検討しなければならないのだろうか。
 適切な情報を、適切なタイミングで政府が提供することは、民主主義の基本だと思うわけだ。少なくとも、民主党政権による現在のTPP検討手法は、民主主義の基本を疎かにしていると断ぜざるを得ない。
 本連載も最終回ということで、TPPとは「結局、何なのか?」についてまとめておきたい。ここで言うTPPとは、シンガポールなどが締結済みのP4協定の話ではない。2009年の、アメリカによる参加表明以降のTPPについてである。
 アメリカにとって、日本が入らないTPPなど、ほとんど意味をなさない。何しろ、連載第1回で見た通り、現状のTPP参加国、参加加盟国のGDPを合計すると、日米両国で9割のシェアになってしまうのである。また、第2回でご紹介した通り、アメリカが輸出倍増計画による自国の雇用改善を望んでいる以上、現行のTPPの目的が、
「日本にアメリカの農産物やサービスなどを輸出する」
ことにあるのは明白だ。

アメリカの関心事項は金融や投資
 第6回で見たように、アメリカの新たな構造改革要求の場である「日米経済調和対話」における「アメリカの関心事項」と、TPPで検討されている24の作業項目は、見事なまでに一致している。ご丁寧なことに、元々のP4協定には存在しなかった「サービス(金融)」や「投資」までもが、24の作業部会の中に含まれているわけだから、まさに何をか言わんや、である。単純に、日米経済調和対話において、アメリカの関心事項に金融や投資が入っているからこそ、作業部会の方にも加わっただけなのである。
 さて、前回までをお読みいただいた読者は、アメリカが「TPPで何をしたいのか?」については、概要をご理解いただけたのではないかと思う。次に問題になるのは、「誰がTPPを推進したいのか?」である。
 この問いに「誰が推進したいかって? アメリカだろ」と答えたくなる人は多いだろうし、もちろんその答えは正しい。しかし、ここで問題にしたいのは「アメリカの『誰が』推進したいのか?」という話である。
 実は、アメリカは「誰がTPPを推進したいのか?」についても、きちんとオープンにしている。と言うよりも、全く隠していない。何というか、アメリカという国は、ある意味で本当にフェアである。

日本政府相手の訴訟も可能になる
 アメリカには、「TPPを推進したい誰か」が集まった「TPPのための米国企業連合」という団体がある。
 「TPPのための米国企業連合」は、TPPがアメリカにとって「死活的な問題である」と位置づけ、ホワイトハウスに様々な要求を突きつけている。すなわち、TPP加盟国がアメリカの製品やサービスを拒むことができるような「抜け穴」は、決して作ってはならないと、オバマ政権に圧力を掛けているのだ。
 同企業連合は、特に六つの分野を重要視している。すなわち、「市場開放」「知的財産権」「投資」「簡素化された貿易」「規制の統一」「公正な競争」の6分野である。例えば、「投資」の分野において、「TPPのための企業連合」は、
「米国の対外投資にとって安定した非差別的な法的環境の典型をつくり出すために、強力な投資保護、市場開放規定、紛争解決を組み込むべきだ」
と主張している。
 何を言っているのかといえば、北米自由貿易協定(NAFTA)同様に、TPPにおいても「国際投資紛争解決センター(ICSID)」を仲裁機関に指定しろ、という話である。TPP協定に投資が含まれ、ICSIDによる「紛争解決」が組み込まれると、外資系の投資企業が投資相手国の政府をICSIDに訴え、損害を弁済させることが可能になってしまう。より具体的に書くと、例えばアメリカ系投資企業が、日本政府を相手に訴訟を起こし、巨額賠償金を得ることも可能になるのである。

PCB輸出禁止で違反とされたカナダ
 実際にICSIDによる仲裁機能が組み込まれている貿易協定、すなわちNAFTAの例を1つ上げておこう。
 NAFTA発効(1994年)後、アメリカ系の企業SDマイヤースは、カナダにおいてPCB(ポリ塩化ビフェニル)廃棄物処理をビジネスにしていた。ところが、カナダ政府が「カナダ国内」からのPCBの輸出禁止を決定したため、SDマイヤースは経営不振に陥ってしまう。SDマイヤースは1998年に、カナダ政府がNAFTAの規約に違反しているとして、ICSIDに訴えた。ICSIDは2000年に、SDマイヤースの訴えを認め、カナダ政府がNAFTAの内国民待遇を犯しているとの判決を下したのである。
 カナダ政府が「自国からの」PCB輸出を禁止したのは、カナダ政府、あるいはカナダ国家としての主権行為である。これをとがめることができるのは、本来はカナダの主権を持つカナダ国民だけのはずだ。ところが、貿易協定(このケースではNAFTA)に「投資」が含まれていると、外資系投資企業が「投資相手国の政府を訴える」という、無茶が通ってしまうのである。
 率直に言って、カナダ国民の主権が侵害されているとしか思えない。
◇ TPPの作業項目に、元々のP4協定にはなかった「投資」が含まれていること。
◇ 「TPPのための米国企業連合」が「投資」について、何を要求しているのか。
 上記を理解した上で、TPPについて「いや、単なる平成の開国だよ」などと、呑気なことを言える日本国民はいないのではないだろうか。

 さて、「TPPのための米国企業連合」であるが、果たしてどのような企業、団体が加盟しているのだろうか。まさに、豪華絢爛といった顔ぶれだ。
 例えば、農業分野では、世界の穀物市場や農産物市場を牛耳る、いわゆる「穀物メジャー」の1社であるカーギル。「GM作物」、すなわち遺伝子組み換え作物の種子の市場において、何と世界の9割のシェアを握る巨大企業モンサント。さらに、アメリカ大豆協会やトウモロコシ精製協会、全米豚肉生産者協議会等、アメリカ国内で巨大な権力を持つ農業団体が「TPPのための米国企業連合」に参加しているのだ。

 もはや、この時点で「お腹いっぱい」という感じであるが、同企業連合に参加している企業の顔ぶれは、こんなものではない。金融分野からは、シティ・グループ。通信分野からAT&T。世界最大の建設会社であるベクテル。日本でもお馴染みの、建設機械の最大手キャタピラー。世界最大の航空機製造会社ボーイング。飲料分野からコカ・コーラ。物流サービス世界最大手のフェデックス。IT系ではヒューレット・パッカード、IBM、インテル、マイクロソフト、オラクル。世界最大の医薬品メーカーであるファイザー製薬。医薬品世界第2位のジョンソン・エンド・ジョンソン。世界最大の小売業、ウォルマート。さらに、世界最大のメディア・コングロマリットであるタイム・ワーナー。
 上記のほかにも、アメリカ生命保険会社協議会、先進医療技術協会など、アメリカが誇る「サービス業」の団体が、ずらりと顔を揃えている。

国家は「サービス」も輸出できるのである
 上記の凄まじい顔ぶれが名を連ねる「TPPのための米国企業連合」が、オバマ政権に対し、「TPP交渉で妥協をするな」と要請を出しているわけである。理由はもちろん、彼らのビジネス戦略上、TPPで他国の市場をこじ開けることに意味があるためだ。
 日本人の多くは知らないと思うが、実はアメリカは「世界最大のサービス輸出国」である。輸出と聞くと、日本人は「工業製品の輸出」を頭に思い浮かべてしまう。あるいは「アメリカの輸出」の場合は、「農産物」の輸出になるだろうか。
 ところが、実は工業製品や農産物などの形がある「財」だけではなく、国家は「サービス」も輸出できるのである。と言うか、そもそもGDP(国内総生産)上の「純輸出」は、工業製品や農産物の輸出から輸入を差し引いたもの、すなわち貿易黒字を意味しているわけではないのだ。工業製品や農産物などの「財」の輸出入に加え、「サービスの輸出入」も統計上、きちんとカウントされているのである。すなわち、国際収支上の「貿易・サービス収支」である。
 サービスの輸出とは何だろうか。財務省の国際収支統計を読むと、サービスの収支の解説は以下の通りとなっている。


◆サービス収支 サービス取引の収支を示す。
輸送 :国際貨物、旅客運賃の受取・支払
旅行 :訪日外国人旅行者・日本人海外旅行者の宿泊費、飲食費等の受取・支払
金融 :証券売買等に係る手数料等の受取・支払
特許等使用料 :特許権、著作権等の使用料の受取・支払

 すなわち、国境を越えて「売買」される貨物運送や、航空サービス、海外旅行、「金融サービス」、そして特許等のライセンス料が、国際収支上の「サービスの輸出入」になるわけだ。TPPの24の作業部会の中に「知的財産権」があったが、覚えておいでだろうか。これは、特許や著作権などの「知的財産権の輸出」を意味しているのである。
 ちなみに、日米経済調和対話の「アメリカの関心事項」や、「TPPのための米国企業連合」の要望の中にも、「知的財産権」がきちんと入っている。「TPPのための米国企業連合」は、知的財産権を含めた理由について、
「知的財産権は米国の経済成長と雇用を支えている。知的財産権の保護規定は米国がTPP諸国と結んだ既存の通商協定に基づくべきだ」
と、説明している。
 すなわち、アメリカ(もしくはアメリカ企業)にとって、知的財産権とは「輸出したいサービス」の1つなのである。
 輸出されるサービスは、前述の輸送、旅行、金融、特許使用料のほかにも複数ある。例えば、医療や教育、通信や保険、建設や文化・興行、それにビジネスサービスなどである。先の「TPPのための米国企業連合」の企業の顔ぶれと比較すると、かなり納得していただけたのではないだろうか。
図8-1http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110331/219249/?SS=nboimgview&FD=593736002

 図8-1の通り、アメリカのサービスの輸出は、2009年時点で既に輸出総額の3分の1を占めるに至っている。日本のサービスの輸出が輸出全体に占める割合は、わずかに10%強でしかない。アメリカは、ことサービスの輸出については、日本など歯牙にもかけない「先進輸出国」なのである。

 グラフを見ると、1980年台以降にアメリカのサービスの輸出が急拡大しているのが分かる。この時期、各国と貿易摩擦を引き起こしたアメリカは、製造業の輸出で日独などには勝てないことを理解したのだろう。結果、輸出促進の主力をサービスに切り替えたというわけだ。
図8-2http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110331/219249/?SS=nboimgview&FD=594659523

 アメリカのサービス輸出の内訳をグラフ化したものが、図8-2である。アメリカのサービス輸出拡大は、当初は輸送や旅行が中心だった。ところが、90年代から「その他サービス」が急激に伸び始め、2000年頃に輸送・旅行を抜き去っている。
 その他サービスとは、金融、保険、IT、ビジネスサービスなどになる。今や、「その他サービス」は、アメリカのサービス輸出全体の、ほぼ半分を占めるに至っている。これは90年代後半以降の、ITや金融工学の発展と、もちろん無関係ではない。

「スローガン先行」の政治から抜け出せ
 さて、全8回にわたり、TPPについて色々と書いてきた。何度も繰り返すようで恐縮だが、筆者は別にTPPに象徴される貿易協定や構造改革について、全面的に否定しているわけでも何でもない。とはいえ、どんなソリューション(解決策)であっても、適切な時期というものがあるのだ。あるいは、時機を逸したソリューションは、言葉の響きがどれほど美しくとも、適切ではないのである。
 また、TPPほど大規模な「改革」を、政府がほとんど情報をオープンにせず、「平成の開国」などのスローガン先行で推進しようとするのは、民主主義国家として問題があるとしか言いようがない。情報が適切に与えられない状況では、国民は目隠しをしたまま交差点を渡らなければならなくなってしまう。
 TPPを推進する人たちは、「情報の非公開」「スローガン先行」「悪者を作る(TPPの場合は農業)」といった、日本の政治スタイルの悪い部分が凝縮されたような手法を採っている。これはさすがに、看過することができない。
 本連載や「TPPについて考えること」をきっかけに、日本国民が「スローガン先行」の政治から抜け出せることができれば、筆者としてこれに勝る喜びはない。

*以上、転載終わり

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