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イラン危機、カギは「中国」「ユダヤ」「選挙」 孫崎享氏インタビュー 日経ビジネスより転載

*日経ビジネスより転載

イラン危機、カギは「中国」「ユダヤ」「選挙」
元駐イラン大使が読むホルムズ海峡の行方
日経ビジネス http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120119/226308/森 永輔  【プロフィール】 バックナンバー2012年1月20日(金)
欧米による経済制裁。イランによるホルムズ海峡封鎖。イラン情勢が緊迫している。イスラエルによる先制攻撃はあるのか? 緊張を緩和する術はないのか? 元駐イラン大使の孫崎享氏に聞いた。

(聞き手は森 永輔)
問:イラン情勢が緊迫している。今後、どのような展開が予想されるか?
孫崎:山場は2012年の7月だろう。EUが7月から、イランからの原油輸入を全面的に禁止する方向だ。EUが原油の輸入禁止に踏み切ると、米国の他の同盟国もEUに追随せざるを得なくなる。輸入禁止が強まれば、イランが軍事的な動きに踏み出す可能性が強まる。
 最も起こり得るシナリオは、イラン指導部の親衛隊の役割を持つイランの革命防衛隊が我慢できなくなり、軍事行動に出ることだ。ホルムズ海峡の封鎖まで行かなくても、1発の銃弾が軍事紛争の引き金になる可能性がある。
 ただし、11月の米大統領選が終了するまで現状が続けば、それ以降は緊張が収まるだろう。現在の緊張は、米国に敵対する国に対して強硬な姿勢を示そうとする候補者、ユダヤ・ロビーの活動など、米大統領選の影響をたぶんに受けている。


【米大統領選に勝利するためには敵対国への強硬姿勢が欠かせない】
問:米共和党の大統領候補選びで、外交について、候補者から過激な発言が相次いでいる。
孫崎:サウスカロライナ州で行われたテレビ討論でタリバンへの対応を問われたミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事は「世界中のどこにでも行き、彼らを殺す」と答えた。ニュート・ギングリッチ元下院議長も「『殺せ』ということだ」と応じた。「自分にしてほしくないことは他国にもすべきではない」と答えたロン・ポール下院議員はブーイングを浴びた。
 質問がイランに対してであっても、候補者らは同様の回答をしただろう。彼らに対抗するため、オバマ大統領もイランに対して強い姿勢をとることになる。
 米大統領選挙で重要な役割を果たすのはユダヤロビーの動きだ。彼らは多額の資金と大きな動員力を持つ。フロリダ州をはじめとするカギとなる州では、彼らの存在感が特に大きくなる。どの候補も、彼らを重視することになる。実際、共和党のすべての候補が最近イスラエルを訪れている。
 オバマ大統領はこの1月に、ジェイコブ・ルー行政管理予算局長官を主席補佐官に据えた。ルー氏は敬虔なユダヤ教徒だ。オバマ大統領は、予算に関する共和党との交渉における彼の力を買ったのに加えて、選挙対策の意味合いがあるだろう。ユダヤ系新聞はルー氏の就任を歓迎していた。


【米大統領選を左右するユダヤ・ロビーの大きな力】
問:イスラエルにとって、イランが核兵器を持つことは大きな脅威になる。イランに対するユダヤの強硬姿勢が、米国のイラン政策に影響を与えているわけか。
孫崎:そうだ。イスラエルは以前から、イランによる石油輸出をなんとか止めたいと思っている。石油収入が、イランがパレスチナを支援する際の原資になっているからだ。ユダヤ・ロビーは現在を、それを実現する4年に1度のチャンスと捉えている。
 しかも、今回はやり方が巧妙だ。イスラエルによるイランへの先制攻撃が懸念されている。しかし、先制攻撃をすれば、イスラエルは国際社会から強く非難される。それを恐れてイスラエルは実行できないでいる。だが現在の情勢では、イランが先に軍事行動に出る可能性がある。仮にイスラエルが軍事行動で対抗しても、非難されることはない。
 ただし、イスラエルが本当に恐れているのは、イランによる核攻撃ではない。中東におけるイスラエルの核独占が崩れることだ。独占が崩れるとアラブ諸国が、パレスチナへの支援を強めかねない。アラブ諸国は今、イスラエルによる核の報復を恐れて、パレスチナへの資金、兵器の供与を控えている。

問:選挙前はロビーが力を持つ。
孫崎:オバマ政権に圧力をかけているのはユダヤ・ロビーだけではないだろう。軍需産業も、その1つではないだろう。中東の緊張が高まれば武器が売れる。実際、サウジアラビアが米国からF15戦闘機を買うことを決めた。
問:米大統領選挙以外に、中東に緊張をもたらした要因はあるか?
 中東の石油に対する米国の依存度が下がったことがある。米国内の油田やガス田の開発が進んだ。仮に中東で軍事紛争に起こっても、経済的な負の影響が以前よりも小さくてすむ。
 国際原子力機関(IAEA)のトップが交代したことも要因の1つだろう。前任のモハメド・エルバラダイ氏に比べて、現職の天野之弥氏は米国寄りに見える。IAEAが11月に発表した報告書は、イランが核兵器開発に向けて実験に取り組んできたと述べている。これが今回の制裁の引き金になった。しかし、私が見るところ、この報告書はイランの核兵器開発を裏付ける、新たで明確な事実を示してはいない。多分に政治的なものに見える。
 冒頭でお話したように、EUが米国に同調したことも大きい。しかし、深刻な金融危機にあるEUが、なぜこの時期に中東を不安定にするのか? 私には理解できない。

問:イランの側に、欧米との緊張を助長する動きはあるか?
孫崎:ある。イランの最高指導者ハメネイ師やアハマディネジャド大統領にとって、外国との緊張状態は必ずしも悪いことではない。実はイラン国民の8割は欧米との協調を支持している。ハメネイ師やアハマディネジャド大統領などの保守派はこの事態を憂慮している。
 外国との緊張を高めることは、国内の求心力を高める手段として有効だ。実際、80年代のイラン・イラク戦争の時には、保守派への支持が高まった。


【中東安定のカギを握るのは中国】
問:11月の米大統領選が終了するまで、事態を軍事紛争に発展させないためにはどうしたらよいか?
孫崎:カギを握るのは中国だろう。今のところ中国だけがイランに対する制裁に反対している。ロシアも反対しているが、石油の輸入国ではないので発言力は大きくない。中国が今の姿勢を貫けば、それに呼応する国が出てくるかもしれない。そうすれば流れが変わる可能性もある。
 中国の役割について考えるときに大事なのは、同国の経済だ。中国は今年、政権の交代がある。中国は高い経済成長を必要としている。経済が安定していれば、交代はスムーズに進むだろう。しかし、経済成長が鈍ると、タカ派が勢力を伸ばす余地が出てくる。
 中国は、かつて米国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャー氏の論に、忠実な姿勢をとっている。同氏は「核保有国は、生存を脅かされる時には核使用に踏み切る。しかし、そうでない時は核を使用しない」と考えた。中国は「制裁を過剰に強めると、イランは『生存を脅かされた』と感じる。それは得策でない」と考えているのだろう。

問:イランをめぐる情勢において、日本にできることはあるか?
孫崎:日本は経済国だ。国際秩序の維持が生命線である。だから秩序の維持を重んじる姿勢を示すべきだ。
 加えて、米国に政経分離を求めてもよいのではないか。国際秩序を壊すものは追及するべきだ。しかし日本はエネルギーを海外に依存するしかない。政治問題が経済に影響を及ぼす事態は避けなければならない。
 実際、韓国は石油の確保が困難なことを理由に制裁参加をしぶっている。日本もがんばれないことはない
 こんな説得の論理も考えられるだろう。「日本は中国と経済戦争を戦っている。我々だけが石油の輸入を禁止すれば、中国を利することになる。日本の経済力が低下することは米国の国益にもかなわない」。


【イスラエルがある限り、米国は“脱中東”を図れない】
問:イラン情勢を概観すると、とても不思議だ。米国はなぜ今、イランに強硬な姿勢をとるのか? 大統領選挙がある事情は分かる。だが一方で、米国はイラクとアフガニスタンからようやく撤退しつつある。深刻な財政赤字に苦しんでもいる。それゆえ、国防費の削減が必要になり、米軍は2正面作戦の放棄を決めた(関連記事「米国の新国防戦略が日本にもたらす“危機”」http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120111/226040/)。イランと事を構えるのに適切な時期とは思えない。
孫崎:米国はアジアへの回帰を唱えているが、中東から離れる気はないだろう。米海軍の海軍が「アジアにおいて米艦船も人員も増えない」と語った。日本や韓国、オーストラリアといった同盟国にがんばってもらうということだ。
 イスラエルは、どうあっても、米軍に中東への駐留を望むだろう。それもあって、米軍はイラクに駐留していた兵をクウェートに移動しようとした。しかし、クウェートはこれを受け入れなかった。イランとの緊張が今後も続けば、クウェートも米軍を受け入れざるを得なくなる可能性がある。

問 オバマ大統領はこの1月に新しい国防戦略を発表し、「中国の台頭は長期的に米国の安全保障を脅かす可能性がある」と明記した。中国に対するヘッジはどうなるのか。
孫崎 共和党の大統領候補者選びの過程で、ロムニー候補が「自分が大統領になったら、その初日から、中国を敵として対応する」と発言した。これは選挙戦術として中国に強く出ているのだろう。レトリックと見てよい。ただし、オバマ大統領はこうした発言への対応として、同様の発言もしくは政策を取らざるを得ない。

【聞き手から】
 民主主義は、独裁制などに比べて相対的に優れた政治制度と言われる。しかし、選挙のために中東の安定が損なわれるとしたら、民主主義の有効性を割り引いて見る必要がある。



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